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選好

前回の記事で消費者理論が出て来たので,それを一般化して個人選択・社会選択を語る準備をしよう.詳しい議論は (行頭を右にずらした) 段落引用形式で記述する.

選好にかんするこの記事では,ほとんどのテキストで触れられていない基礎的な事柄の説明に重点を置く.読者がこれまで引きずって来たであろう疑問を解消できれば幸いだ. 通常は弱選好 R から出発して,強選好 P などを定義することが多いが,ここでは強選好 P のほうから出発した.

この記事で出て来る《選好》という概念をきちんと学びたい方は,たとえば田中靖人のサイトにある『社会的選択理論の基礎』のセクション 1.1「個人の選好あるいは評価」 を見たあとに,次回の記事の議論と関係が深い『社会的選択理論の展開』セクション 1.1「非循環性について」にすすむといい.(細かいことを言えば,前者で Ri と Pi の定義における「非対称性」「対称性」のラベル,「[連結性] が成り立たないと意志決定はできない」というクレーム,推移性の定義で「異なる選択肢の組」としている点など,自分ならそうは書かない記述はある.)

ところで田中のサイトからは 360 ページを超える中級ミクロ経済学の本格的テキストもダウンロードできる.日本語でも学部レベルの本格的な経済学テキストが無料ダウンロードできる時代になったものだと感慨深い.(英語のばあい,たとえば Online Economics Textbooks からいろいろダウンロードできる.) もっとも,ミクロ経済学全体とはいわず部分的なテキストなら,たとえば西條辰義による厚生経済学をあつかったものがかなり以前から入手できた.

まずは中級ミクロ経済学を学んだひと向けに簡単に用語の対応関係をまとめておく.消費者は《個人》と,消費集合は《選択肢集合》と,予算集合は《アジェンダ (議題)》あるいは《予算集合》と,消費者の選好は個人の《選好》あるいは《選好関係》と言い換えられる.消費者理論では予算集合上で選好を最大化する (すなわちもっとも好まれる) 消費を選び,選択理論ではアジェンダ上で選好を最大化する選択肢を選ぶ.(「アジェンダ上で選好を最大化する」というのはやや略した表現で,より正確には「選好関係についてのアジェンダ上の極大要素を求める」と言う.)

消費者理論では,消費集合は二次元以上のユークリッド空間の一部であり,そこには無限個の要素がふくまれている.要素が無限個あるばあい,一般には最大化できるとは限らない.さいわい,いくつかの財の価格がゼロになる例外を除けば,予算集合が「コンパクト」なので,選好が「連続性」を満たせば最大化できる---といった議論が展開できる.厳密な理解のためには,「コンパクト」とか「連続性」といったトポロジーの概念を勉強する必要がある.

消費者理論に比べれば,古典的な選択理論の厳密な理解は簡単だ.その大きな理由は選択対象が有限個しかない状況を考えるためだ.ある個人がある《選択肢集合》X から選択する状況を考えよう.X というのはあくまでも可能な選択肢全体のあつまりであって,無限個の要素があってもかまわない.じっさいにその個人が直面するのはその X の中の一部をあつめた有限集合 S (《アジェンダ》とか《予算集合》と呼ばれる) である.有限集合というのは要素を有限個だけもつ集合だ.たとえば X がその個人の住む高松市にある食事のできる店すべてをふくむとしたら,S はその部分集合で,たとえばその個人が今晩食事をしたいと考える店の集まりである.今晩食事をしたいと考えるからには,もちろんその場所の存在は (食事をする時点までに) 知っている必要があるし,今晩休業していることが分かっている店は S から除かれているはずだ.

いま,「その個人は選択肢 x を選択肢 y よりも好む」という文を xPy と記号化しよう. (P はたぶん "prefer" の頭文字からきている.P の代わりに不等号に丸みを持たせたような記号を使うことも多い.テキストでよく Pi のように個人名を表すインデックス i がサブスクリプトになっているのは,複数の個人を区別するためである.ここでは個人をひとりだけ考えているので,サブスクリプトに個人名を表示する必要はない.) この P のことを《選好 (強選好,strict preference)》と呼ぶ.いや,P だけだと単に文字なので分かりにくいかな.○と △ という 2つの「入力欄」を備えた装置○P△ が選好だと考えると分かりやすいかもしれない.入力欄の ○ や △ のそれぞれに,具体的な値である「モンゴルの嵐 (で食べること)」(県病院前のジンギスカン料理店; a と表す) とか「慎太郎 (で食べること)」(法経地ローキャンパス斜め前のクジラ肉が食べられる土佐料理店; b と表す) とかを入力すれば,その装置は「真」(aPb は正しい; 簡単に aPb と書く) とか「偽」(aPb でない; not aPb と書く) とか出力してくれる.いうまでもなく 「aPb が正しい」とは,「その個人はモンゴルの嵐 (で食べること) を慎太郎 (で食べること) よりも好む」ことを言っている.

文字 x とか y を,○とか△ 同様,いまだ特定されていない選択肢を表す「変数」と見るならば,xPy の真偽は定まらない.x とか y を特定の値 (具体的な選択肢) にしたときはじめて xPy の真偽が定まる.このため xPy を P(x, y) などと書いて,P(x, y) が (x, y) の値に応じて T (真) あるいは F (偽) のいずれかをとる関数 (命題関数; 述語) P と見ることがある. (たとえば関数 f(x)=2x+3 が与えられているとする.単に f(x) と書いただけでは,変数 x が 2x+3 に変換される関数 f 自体を表しているのか,それとも 2 などの特定の値の x に対応する f(x) の値である f(2)=2*2+3=7 などを表しているのか区別がつかない.xPy あるいは P(x, y) という表現も同様の問題がある.) x, y が変数のときには xPy の真偽が定まらないはずなのに, xPy とだけ書くことで,P(x, y)=T となるような (x, y) たちを考えていることを表現することがある.これは f(x)=7 と書く方程式が x の取りうる値の集合 {2} を与えるようなもので,要するに xPy が真となるような (x, y) の集合を与えている.言い換えれば選好 P は集合 X の要素のペア (x, y) の集合と見なせる.

集合の言葉で言えば《選好》は X 上の二項関係である.不等号という (実数集合上の) 二項関係 ≧ が,任意の実数 r, r' について,r ≧ r' がなりたつのか成り立たないかを決定できることを思い出して欲しい.X 上の《二項関係》 P というのは,X の任意の要素 (つまり選択肢) x, y について,xPy が成り立つかどうかを決定する.言い換えれば,xPy が真であるようなペア (x, y) の集合を与えている.

xPy の否定,つまり「not xPy」は yRx と書くことが多い.R は《弱選好》と呼べる.(ふつうは R を「選好」,P を「強選好」などと呼ぶが,ここでは P を「選好」と読んだために,R に「選好」という同じ言葉を宛てることを避けた.R という記号は "preference relation" の Relation から来ているんだろう.) これは「選択肢 x を選択肢 y よりも好む」の否定だから「選択肢 x を選択肢 y よりも好むわけではない」つまり「選択肢 y を選択肢 x 以上に好む」の意味になる.経済学以前の話であるためか,選好についてはプロの経済学者でも意外と誤解が多い.消費者理論を勉強したことがある読者で関心がある方は,以下の箇条書き部分を読むといい.

  • よくあるのは,消費者理論で無差別曲線が右上がりになっている誤り.財が好ましい (選好が《単調性》をみたす: 多いほど望ましい) ときは,これは起こらない.
  • xRy を「x は y 以上に好まれる」と読むのはいいとして,xPy を「x は y よりもすごく好まれる」と読むひとがたまにいる.これはとりあえずまちがい.もし xPy をそう読むのならば,xRy は「y は x よりもすごく好まれるわけではない」つまり「x は y よりだいぶ悪いわけではない」「y は高々 x とそう変わらない」とでも読むべきだ.単調性を仮定するのも無理がある.ある財の量がちょっと増えたとたんに「すごく好まれる」ことになってしまうからだ.
  • xPy を「x は y よりも嫌われる」と読むのはどうだろう? じつは次回挙げる P についての性質のほとんど (推移性,非反射性,非対称性,非循環性) が自然に仮定できる.これらの性質をリストしただけの段階では,なんの問題もなく「x は y よりも嫌われる」という解釈が成り立つ.ただ,単調性を仮定した頃からやや状況は変わって来る.単調性はより多くを嫌うということになり,望ましくない財をあつかっていることを意味するようになる.より不自然なのは,P についての最大化を考えることであり,これはもっとも嫌う選択肢を探し求める個人,つまり「最悪化する個人」を想定することになってしまう.「最適化理論」ではなく「最悪化理論」をやっているという意識があれば,最初の読み方で問題ない.
  • 選好理論自体にかんする誤解ではないが,xPy を文「その個人は選択肢 x を選択肢 y よりも好む」によって定義しようとするひとがいる.しかしこれは定義になっていない.定義はきちんとした言語で行われるべきであり,いまのばあい定義に用いようとしている言語は数学である.日常言語による表現を数学の表現に置き換えてあいまいさを除きたい.そのために数理モデルを作っているのだ.(もっとも自然言語であっても,「個人 x は個人 y よりも先に生まれた」というような表現ならば x, y に具体的な個人を入れれば真偽が明確に定まる (命題になる) と考えられる.こういうばあいなら,xPy を「個人 x は個人 y よりも先に生まれた」で《定義する》と言ってよいだろう.)
  • それでは逆に,文「その個人は選択肢 x を選択肢 y よりも好む」が xPy という記号によって「定義されている」というのか? そういってもいいのかもしれないが,これは単に上の文が xPy という記号表現で置き換えられているだけのことであり,「定義」というよりは「名付け」「記号化」「翻訳」とでも呼べばいい.(逆に xPy を「その個人は選択肢 x を選択肢 y よりも好む」と「解釈する」とはいえる.) 選好を P に記号化 (P で定義?) するのであって,その P 自体は無定義概念である.一方,上述の R は,その無定義の P を使って定義できる (xRy を not yPx で定義すればいい).こちらの方はまちがいなく「定義」と言える.さらにいえば,xRy は「x を y 以上に好む」を記号化した表現だから,「x を y 以上に好む」は not yPx で「定義される」と言える.さらには,すでに「x を y よりも好む」が xPy に記号化されたという理解のもとであれば,「x を y 以上に好む」は「y を x よりも好むわけではない」によって「定義される」と言ってもよい.

極大要素の存在: 美人ホールを求めて」につづく

追記 (9/25/2006). 段落引用形式部分をかなり修正.

【2006/09/17 23:50 】
| 社会科学 | コメント(2) | トラックバック(0) |
<<極大要素の存在: 美人ホールを求めて | ホーム | 評価額と支払い能力にかんする基礎論: ハーヴィッツの呪い?>>
コメント
はじめまして。非経済学部でゲーム理論・メカニズムデザイン・社会選択理論を勉強しているものです。平凡助教授さんのモデルのMiharaさんのHPでレクチャーノートやら参考文献など非常にお世話になっています(特にMechanismeと権利~のノートはとてもです)。
今回の記事・基本的な問題を問い直しているので、僕にも理解ができたのしく読めました。
関東に住んでいるもので、先生が某赤門のT大に来てくれたらいいのに、と願っています。
またチャックします!
【2006/09/21 22:45】
| URL | moegi #-[ 編集] |
「非経済学部」じゃ広範すぎてわからないなあ.

最近の記事は読者層が定まらずに苦慮してます.特に今回の記事は不満が多いので書き直そうと思っているところ.非経済学者・佐伯の『「きめ方」の論理』のような楽しい本が内容一新して蘇れば,それをすすめるだけで済むんだが.

東大の部屋,勝手に使って---小室直樹とかやってたけど---追い出されないのかなあ.(赤門って東大以外にあったっけ…….)

東大にいるなら経済の教授のところを覗けばいいんじゃ.一気に最先端まで連れてってくれるはず.(ボクも経済学を知らない共著者なら一気に最先端まで導いて来たけど……あまり人気のない先端へ.) 麗珠ノートは門を叩くまでの橋渡しというか,覗く勇気を持てるまでの道筋はつけるかも,舗装してない路だけど.
【2006/09/22 00:12】
| URL | 平凡助教授 #-[ 編集] |
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