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経済学部新プログラムの外部評価

新年度のこの時期は修学案内やシラバスを熟読するのが慣例になっている平凡助教授だ.法学部や教育学部の修学案内はときどきしか入手していないが,経済学部や経済学研究科のものは他組織に移ったあとも入手している.今年度,経済学部サイトからボクの名前は消えてしまった.ボクは経済学部の併任を解かれたようだ.ただ,わが研究科の専任教員全員が解かれたわけではない.経済学部教育について熱心に発言するようなやっかいな教員が外された模様だ.おそらくボクは今後,経済学部の科目担当を要請されることはないであろう.それなのに相変わらず修学案内と全科目のシラバスは暗記するほど読んだ.そうする大きな理由は,ボクがまだ学部教養教育の担当を外れていないことにある.教養科目を担当するためには,その科目の分野に近い学部でどのような科目が提供されているのかを知っておく必要があると考えるからだ.経済学部はわが大学院研究科の潜在的な人材供給源であるのも理由である.関心ある分野の有力テキストをシラバスで知ることもある.だが,そんな理由を度外視しても,今年度の経済学部修学案内は面白いものだった.カリキュラム改革があって,プログラム (カリキュラム; 履修規定) が刷新されたためだ.

ほとんどかかわりのないリマーク.新年度とは言ったが,まだ春休みは終わっていないはずだ.春休みにした印象深かったことといえば,(温泉宿あらぬアパホテル泊で金沢に行き) ほとんど客のいない金沢蓄音器館で蓄音機の生の音色を聞いて来たことだ.さすがに生の音はネットでは聞けない.11台もの蓄音器の実演を一時間近くかけて試聴できるとは期待していなかった.円筒状のロウのものをエジソン社の蓄音器でプレイするのを聞けたり,なかなか満足度は高かった.二,三おもしろい展示もあった金沢21世紀美術館よりも満足度が高かったかも.オーディオマニアは一度は行くべきだろう.ちなみに自分はオーディオマニアではないけど.しかし本文からかなり脱線してるな,このリマーク.

以下,経済学部新プログラムについて気づいたことを思いつくまま列挙する.(システマティックに整理するのは面倒だからね.) ボクは経済学部とは関係ないので,これは「外部評価」ということになる.

  • いちばんの進歩は,各学科の科目について複数の履修モデルを示したことだろう.ボク個人もかつて示したことのある私的な履修モデルほどではないにしても (同僚への遠慮などあるのだろう),重点を置くべき科目などを文章で示した意義は大きい.(モデルとして挙っている表自体は重点が分からないのであまり良くない.) 履修モデルは進路別に「公務員」「大学院進学」「総務系経営管理部門」「経済記者担当」「新聞社の海外部門」「県観光振興課など」など,一部には真面目だか冗談だか分からないものもある.おせっかいかもしれないが,モデルであって規定ではないのでいいだろう.
  • 各学科に複数の「コース」(プログラム) が設けられた.履修モデルがあるのに,「コース制」まで導入するのはパターナリスティックというか,余計なお世話かもしれない.工夫すれば学科単一プログラムで対応できたのではないか.事実,経済学部は「コース制」を無意味だということで数年前に廃止したばかりだ.モデルはモデルとして自由に作ればいいが,規定にしてまで各学科を細かく分ける必要はなかったのではないか.受験生へのシグナルとしてはモデルで十分ではないだろうか.
  • コース制でいう「コース」を決めるのが早すぎる.「各学科の学生は2年次から学科が開設しているコースに所属する」となっている.コース科目をとらないうちに所属コースを決めろということか.一方,所属コースによって演習を履修できる教員が制限されるわけではない.コース決定は卒業 (申請) 時で問題ないはずだ
  • コース科目として憲法や民法などの法学部科目を入れたことは大きい.たしか過去には他学部科目として法学部科目がリストされているだけで,プログラム上の位置づけは低かったと思う.ただ,コース科目としてカウントされる法学部科目はたかだか6科目14単位である.他学部科目として取らせることもできたはずだ.(ちなみに前年度までの規定では他学部科目を16単位まで卒業要件に入れられた.) 時間割上の連携をするなどでない限り,この画期的な変更もボクには単なるパターナリズムに映る.ちなみにボク個人が学部生だったころは社会科学科所属だったが,理学科の数学の授業を大量に取っていた.
  • 大学院科目を特別講義として履修できるようにしたのも評価できる.ただ,実現するまでがひじょうに長かった.
  • ほとんどすべての科目が 2 単位になった.実施方法によっては,これが最大の問題だと思う.集中的に学ばなければ結局はマスターできない科目は多い.ミクロ経済学を一週間一コマで一年もかけて教えることを想像するとぞっとする.(分かりにくい人は,コンピュータプログラムを一週間一コマずつ勉強して行くことを想像してはどうだろう.これも分かりにくいか.要するに間が空くと無駄が多いのだ.) 本来4単位で教えるべき内容は,たとえ2単位2科目に分割されたところで,同一学期の前半と後半で続けて教えるといった工夫が必要だろう.
  • 提供科目は増えたかどうか.4単位科目が2単位ものに分割されたりしたために,見かけ上は科目数は増えている.しかし経済学科の常設科目は実質減っているように見える.たとえば4+2単位だったミクロ経済学 I, II は 2+2 単位になった.労働経済学は消えてしまった.(4/10/06 追記: 2004 年度にかなりの教員が GSM に移った以前は,非協力ゲーム理論,協力ゲーム理論ほか,さまざまな地域科学の科目もあった.) ただ,ボク個人は常設科目は絞った方がいいと主張していたので,科目自体が減ることは問題にはしない.特別講義で (やや望ましさは落ちるが演習でも) 柔軟に追加科目を出せばいい.

リマーク.「パターナリズム」で,春休みに読んだ永谷 (2003) 『経済学で読み解く教育問題』(東洋経済) を思い出した.学生を甘やかし過ぎと言う著者の教育批判が痛快だった.だいぶおかしくなっているわが大学はじめ,すべての大学の教員に薦められる本である.これを学部新入生に読ませたら勉強するようになるだろうか,それとも逆効果だろうか.入学式の学長式辞のネタに使えば,効果がプラスかマイナスかは分からないが,ひと味ちがった式辞になるだろう.教育経済学の「テキスト」としては使えないだろう.しかしいちぶの議論 (教育政策手段としてのバウチャーと価格補助金,契約理論,比較優位など) はミクロ経済学のテキストを補完するのにいいかもしれない.

【2006/04/08 23:57 】
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コメント
 ウチの大学の教養科目担当教員も、ちゃんとシラバスを読んで、なおかつ、担当学生の所属学科の教務主任と打ち合わせしてくれれば、あれほどひどいことにはならないと思いますけどね。
 農学部で魚の研究をしている教員が、医学専門教育準備科目だとシラバスに書いてある「生物学」で、魚類の体構造の講義をしていたことにはたまげました。自由選択科目としての生物学ならともかく、学生は医学科だけで、なおかつ医学専門科目の準備としてやっているはずなんですが。
【2006/04/09 08:45】
| URL | Inoue #WjBz4HtQ[ 編集] |
専門科目代わりに教養科目を使うのは教養教育の趣旨に沿わないと思う.でも,医学部でそう決めたならばきちんと担当教員に頼まないと筋が通らない.二重の意味でおかしいですね.

もっとも社会現象を単純化して考える経済学者の感覚では,魚が人間のモデルになっていれば十分だけど……そうではないのだろうな.
【2006/04/11 12:18】
| URL | 平凡助教授 #-[ 編集] |
>専門科目代わりに教養科目を使うのは教養教育の趣旨に沿わないと思う.

 私は単位認定で履修しなくてもいいのに、何をやってるのか知りたくて、教養科目を見て回ったのですが、どれもひどいものでした。
 高校で物理を履修しなかった医学科学生のために設けられた「物理学」で、天文学の話をしていたりとか。
 天文学を自由選択科目として開講するぶんには一向にかまわないんですが、履修学生を医学科に限定しているのにあれはないだろうなと思いました。
 私だったら、医学科学生向けの物理学では初歩的な電磁気学を教えますけどね。神経生理学を理解するには、どうしたって電磁気学が必要なはずですが、医学部教員では講義できません。
【2006/04/11 23:19】
| URL | Inoue #WjBz4HtQ[ 編集] |
経済学部で現1年生向けのコース説明会および希望調査があった.経済学科と地域社会システム学科の各コースの希望者数はだいたい予想の範囲内.経営システム学科は過去のゼミ希望者数とのデータとだいぶ離れた結果になったようで,関係者はうろたえているみたいだ.

(特にコース制の再導入を支持した) 教員たちは「こうなるはずではなかった」と言っているようだ.もともと問題だらけの制度なんだけどなあ.ちなみに学生は二年次から自分の所属コースの教員のゼミを取らなければならないらしい.しかも各教員はひとつのコースだけに所属するという,柔軟性のない制度になっている.経済学科だと,教員は経済理論コースと政策・制度コースと統計・情報コースの3ついずれか一つだけに所属する.理論と応用と統計の溝を深める感じだ.

さて,コース制がふたたびなくなるまでに何年かかるか.
【2007/01/20 00:13】
| URL | 平凡助教授 #-[ 編集] |
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