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教養学部新設にかんする一考
平成香川大学の教養学部は来年春に開設できるところまで来たように見える.もちろん無意味に開設を先延ばしにしようとする勢力はつねに存在するので,実際に来年春に開設するかどうかは分からない.問題点はまだまだあるだろうが,ここまでプランが固まったらあとはスピードが大切だろう.

これからでも変更可能な問題点としては,環境メジャーに環境経済学がないことが挙げられる.(農業経済学でカバーする可能性がないとはいわないが.) 結果として,「どのていど環境を守るのがいいのか.そのレベルをどう実現するのか」といった問題をバランスよくあつかう科目が不足している感じがする.もちろん環境経済学者にバイアスがないとは言わない,専門家ゆえのバイアスはあるだろう.しかし環境経済学でも学ばなければ,「最適汚染レベル」といったバランスのとれた考え方を学ぶ機会はないかもしれない.

もはや変更するのは難しそうな問題点としては,各メジャーのプログラムの専門性が高すぎることが挙げられる.基礎的な科目を飛ばす一方,応用分野を限定した科目を提供することにより,小数の限定された専門に学生を導くようなプログラムになっている.これは一概に悪いこととはいえないが,「教養学部」のイメージとはかけ離れているんじゃないか.本来の「教養学部」というのは基礎分野の教育に重点を置き,どういう専門に進むかについては学生に最大限の自由を与えることを重視するものだ.いまのプログラムはあまり自由とは言えない.まるで教養学部で学んだことや教えたことがない教員がデザインしたように見える.正常な教養学部を市場経済にたとえれば,この大学の作ろうとしている教養学部は計画経済にたとえられる.(共通の限定された目標を持っている者だけが集まるという前提ならば「計画経済」も悪くない.しかし教養学部はそういう前提を売りにはしないはず.) 新たな学部を作るよりは,それぞれのメジャーを関連学部に組込んだ方がマシだろう.

基礎的な科目を疎かにした結果として,他学部からの教員にとって参加しにくいプログラムになっている.(他学部から教員が参加しないことは結果ではなくて原因なのかもしれないが.) たとえば経済学科目がまったくといっていいほど提供されていない現状では,環境経済学を専門とする教員がいたとしても普通なら教えたがらないだろう.もちろん逆に関連科目がない方がやり易いという教員もいなくはないだろうが,その場合でも2単位では教養科目と大差のないレベルの科目になるにちがいない.

ボクに提供できる科目があるかという点も少し考えてみた.数学や経済学といった関連分野の科目があまりにも少ない (教養科目に限定される) 現状を前提とした教育効果を考えると,「ない」というのが結論だ.この教養学部で科目を提供するくらいなら,教育学部数学科や経済学部経済学科あるいは工学部情報科学科 (以上,正式名とはかぎらない) で提供した方がだいぶ効果的だろう.

以上,新設教養学部の問題点などをいくつか述べたが,「自分が参加しない以上どうでもいい」というのが本音だ.他学部教員の多くも「勝手にやってくれ」という感じだろう.(ボク自身は賛同できないけど) 基本的な路線が固まった以上は,さっさと進めてもらいたい.始めてしまえば解決できる問題について議論ばかりしていても時間の浪費だから.ということで来年度の開設を期待したい.
【2010/08/31 04:20 】
| 大学 | コメント(7) | トラックバック(0) |
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コメント
 こんにちは。
 新設学部は名前が決定的に重要かと思います。教養学部ではダメです。一般教養科目のイメージが強すぎます。
 学生にも教員にもバカにされ、教養部教員は大学教員の中でも格下とされ(旧制高校教員からの持ち上がりだった経緯)、教養部は、最終的には解体されてしまった。
 基礎科学部ではどうでしょうか。
【2010/09/02 07:11】
| URL | 井上 晃宏 #-[ 編集] |
なるほど.人文系が大部分なので「基礎科学部」はまずいけど,どうして「教養学部」になったんでしょうね.もともとは人文系っぽいあまり前例のない名前だったと思うが,具体的に教員が集まって来る過程で妥協できる名称に変わったんだろうな.来年度開設はあきらめたみたいなので,また変わる可能性はある.

ただ,もともと文系教員のあいだでは「教養学部」にそんなネガティブなイメージはないと思う.先行例も東大,国際基督教大学,アメリカの Liberal Arts Colleges あたりしか思い浮かばないだろうし.高校生がどう思うかはよく分からないが,「一般教養科目」なんて死語だし,なにをやるかはっきりしないことを除けば,特に先入観はないかもしれない.市場調査しないとなんともいえない.
【2010/09/02 10:36】
| URL | 平凡助教授 #4TQqPKZU[ 編集] |
> もともとは人文系っぽいあまり前例のない名前だったと

いまだに機密かもしれないけど,「国際人文学部」あたりだったと思う.
http://theorist.blog6.fc2.com/blog-entry-163.html
【2010/09/02 11:05】
| URL | 平凡助教授 #4TQqPKZU[ 編集] |
 専攻を決めずに入学し、何をやるにしても必要となるだろう基礎科目を丁寧に教え、その後に専攻を決めて専門家となる。
 理念としてはすばらしい。しかし、実態はどうなってますか?
 自由に専攻を選べるならともかく、専攻には定員があり、必要な点数も自ずから決まってくる。
 人気学科に入るための手練手管(学びたい科目よりも、点数の取れる科目を!)を駆使しなければならない。
 あれ、これって、2年前に、せっせとやってたことじゃなかったっけ?学問って、ちっとも自由じゃないね・・・
 とまあ、こういうことになってるのが、大半の大学の進路振り分けだと思うのです。
 工学部工業化学科の中で、高分子か、化学工学か、無機化学かというような「自由」は可能であっても、理系でまとめて募集して、素粒子物理か、応用数学か、人類学か、心理学か、というような「自由」は、実現不可能でしょう。
【2010/09/03 05:02】
| URL | 井上 晃宏 #-[ 編集] |
国際基督教大学は教養学部でまとめて募集して,入学後メイジャーを決めて行きます.実現可能かどうか注目してます.

わが大学の場合はたぶん教養学部なんとかメジャーというので始めから募集するのかも.まあ,そうしなくても,希望が集中するメジャーもないだろうし,点数で分けるのでもないでしょうね.
【2010/09/03 08:55】
| URL | 平凡助教授 #ySGTZzaA[ 編集] |
初めまして。

社会人として駒澤大学に進学した経験があります。
どうしても学問としての法学を学びたかったというのが動機でした。

ところが法学部での教育というのは、実務偏重、パンのための学問といった内容ばかり。
ひどい絶望感を感じました。
そもそも社会科学を名乗るくせに法律学は全然科学らしくない。
これは科学とは言わない、宗教だ!
などと憤激しておりました。
学校への距離も次第に遠のき、法学への軽蔑さえ感じていた頃、僅かな望みをもって法と経済学という学問領域へ目が向き、岸田雅雄著『法と経済学』(新世社)を読みました。
なんか否定的な感じで始まる教科書。
ちょっとでも自分を救ってくれる書を探していただけに、かなりがっかりしました。
途方に暮れていたとき、三原先生の『法と経済学:文献案内にかえて(仮題)1999.1.8』という書評を偶然見つけました。
紹介されている文献を読みました。
何より岸田雅雄著『法と経済学』に対する私の疑問が何なのか、理解出来ました。
法学部の先生方の有難い指南が期待できない中、学外の先生のお世話になったのは自分でも驚きですが、何時どこで重要なヒントを頂けるか分からないものです。

一度お礼を...

ありがとう先生

【2010/09/04 04:09】
| URL | 折山順一 #-[ 編集] |
折山さん,

行動力あるというか,無謀というか,わざわざ大学に行くならもっと調べないとねえ.といっても,なかなかそれが出来ないのも現実.ミスマッチだと思った時点で方向転換できたならいいでしょう.

ボク自身は法学は社会科学には分類していません.上記の文献案内は古いもので,その後「法と経済学」への法学者の理解は多少は高まったはずです.ちなみに文献案内に登場する Mark Ramseyer はこちらにコメントしてくれたことがあります.
http://theorist.blog6.fc2.com/blog-entry-105.html#comment
【2010/09/04 05:07】
| URL | 平凡助教授 #ySGTZzaA[ 編集] |
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