スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【--/--/-- --:-- 】
| スポンサー広告 | コメント(-) | トラックバック(-) |
大学新入生へ

大学へようこそ.「新入生へのメッセージ」ということで原稿を頼まれたので,大学教員として,そして「先輩」として,アドバイスをしてみる.ボクは留年も退学も転校も卒業延期も経験したし,大学の教務主任にお願いして卒業要件を変えてもらったことさえある.長い学生時代を過ごしたので,それなりに有用なアドバイスもできると思う.抽象的・精神的な訓話をするつもりはない.みなさんそれぞれが目指す職業人 (ボク自身で言えば学者) への道のりを少しでも楽なものにできるような情報を提供したい.(ただしボク自身はけっこう無駄なことをやってきた.決して最短コースで学者になったわけではない.)

みなさんの多くは高校までは学校の勉強や受験勉強をしていれば済んだかもしれない.しかし大学生になったら勉強しなければならないことは一気に増える.専門として選んだ学問分野だけではない.効率的にやるためそして長期間継続できるようにするために,勉強法を工夫する余地は大きい.よって勉強法の本も少しは読むといい.たくさん読む必要はない.(受験勉強法にやたら詳しい一方で受験勉強自体はあまりやらない受験生みたいになってもしょうがない.) ボクが気に入ったものを数冊紹介する.

  • 野口 悠紀雄. 「超」勉強法. 講談社, 2000.
  • LifeHack/GTD (Getting Things Done) にかんするネット上の情報.勉強法というよりは仕事法.ボク自身はきちんとやったことはない.でも,やりたいことをすべて書き出して頭のなかを空っぽにするというていどなら昔からやってる.
  • 佐々木 正悟. 脳と心を味方につけるマインドハックス勉強法. 日本実業出版社, 2008.
  • 金出 武雄. 素人のように考え,玄人として実行する: 問題解決のメタ技術. PHP研究所, 2004. ただしこれは必ずしも勉強法の本というわけではない.

さて,方法が分かったら次は中身だ.(本来の順番とは逆かもしれないが,順番は気にしなくていい.仕事でも学問でも,途中経過はそれ自体を問題にしないほうがいい.要するに結果を出すことが重要なのだ.) 学生時代になにを勉強しておくべきか.自分の目指す将来像から逆算して必要なものをピックアップすればいいのだが,それは必ずしも簡単な作業ではない.勉強すべき内容としてボクが学生に薦めたいものを例示してみよう.ものによっては勉強法にかんするヒントなども添えておく.

  • 英語.繰り返し読んで文章を暗記.Podcasting を iPod で聞く.ボク自身は使ってないが,iKnow も検討に値する.
  • 韓国語.余裕があれば英語以外の外国語もマスターしよう.ボク自身は余裕がないけど.
  • 自分の専門分野.4年分あるいは大学院までふくめたカリキュラムを理解したうえで,欠かせない科目を逆算すること.
  • 専門外の関心ある分野.「雑学」でもいい.専門がきちんとしている例として学者を考えてみる.学者のばあい初歩的なものでも専門外の知識は大いに役立つことがある.自分が考えた理論の応用例を見つけたり,他分野のアイディアを自分の専門に活かしたり.
  • ゲーム理論.理論を作る方法を多くの分野に提供する.たった十数時間かけてたとえば渡辺隆裕 『図解雑学ゲーム理論』(ナツメ社, 2004) を正しく読めば理解できる論文数も一気に増えるのに,そうしない研究者が多い.経営学者とか法学者とか.学者を目指す人は,時代遅れにならないようにゲーム理論のような基礎的分野の勉強をきちんとしておこう.ビジネスを目指す人はゲーム理論で戦略的思考を鍛えよう.(ゲーム理論は多くのビジネススクールでコアになっている.) ゲーム理論の科目の例を挙げておく.
  • 統計,データ解析.実証分析のための方法を多くの分野に提供する.統計の手法を知っていると,とりあえず調査をして (どの本にも載っていないという意味で) 新たな「研究」をやったと主張することができる.実証だけでも認められる分野は少なくない.もちろんそれだけでは理論家に「理論なき実証」と批判されるけれども.
  • 情報リテラシー.インタネットや表計算ソフトの使い方など.全角空白でワープロ文書を整形するひとが少なくなりますように.
  • 線形代数と微分積分.大学初年度のもっとも標準的な数学科目と言えばこれだ.理工系学問や経済学にとってそれだけ重要であるということ.
  • 抽象数学あるいは論理学.典型的な法学者が『図解雑学ゲーム理論』を読んだだけで「ゲーム理論を制覇した!」と言えば,笑われるだろう.しかし典型的な数学者が同じことをしても笑われはしない (あるいは笑いの意味がちがってくる).数学者はこれだけでもゲーム理論の論文をけっこう読めるようになるものだ.適切に助言されればゲーム理論の先端的問題を解くこともじゅうぶんできるはずだ.抽象数学を学ぶことは抽象的思考力を高めるだけでなく,こういう (新たな分野をすばやく学習して高度な理解に達する) 効果が期待できる.集合論あるいは論理学の授業を取ることからはじめよう.
  • プログラミング.ソフトウエア開発をめざすひとにとっては当たり前.それ以外のひとにとっても論理的思考の訓練になる.学者をめざすひとにとっては,自分でプログラムして計算できる能力は今後ますます強みになるのではないか.ちょっと以前なら小さなモデルを解析的に (「理論的に」「数学的に」とほぼ同意) 分析していたような理論分野も,その一部は今後大きなモデルを数値計算的に解くことを主流とする計算分野に変貌する兆しがある.
  • 論文の書き方.一年生でも教養ゼミナールなどで論文の書き方を習うかもしれない.しかし,そこで習うのは主として他人の研究成果を引用して組み合わせるような研究法.(一次資料と呼ぶべき) オリジナルな研究成果を作ることが要求される卒業論文の書き方とは別物である.
  • 宗教・思想.人生の意味などについて最終的な答を出すのはもちろん,とりあえず納得できる答を出すのも難しい.しかしそれらについてまったく何も考えを持たない人生も無駄が多い.ある程度の方向性は持ちたい.自分が信仰するか関心を持つ宗教の教典や解説書を読もう.特に信仰を持たないひとは,自由な意思を尊重するリバタリアン (リバタリアニズム) の本を読むといい (無神論者であろうと有神論者であろうと受け入れられるはず).科学的方法を軽視する思想,短絡的に答を出してしまう思想,コミュニズム (共産主義),フェミニズム,環境保護主義には注意.
  • 人間関係,人のマネジメント,恋愛,セックス.ひとを喜ばせたい,あるいは怒らせたい,あるいは協力してもらいたいと思っても,思い通りにならないことがある.実践で学ぶことももちろん大切だが,それだけでなく戦略的思考も必要.ゲーム理論の授業をとった上で関連書を読むのも助けになる.

以上,資格取得のための勉強は挙げていないことに注意.資格のための勉強というのは,すでに知られた知識を取り込むものであり,新しい価値や知識を生み出す研究とはかなりちがう.そのため,刑務所とちがって大学では資格のための勉強は重視されない.大学にかぎらず職場も同様であり,(規制された職種以外では) 資格自体を重視するわけではない.なにかを学ぶためとか,なにか他の目的を達成するために資格を利用するのは問題ない.しかし資格取得自体が目的となってるようなひとは,自分の目的を問い直した方がいい.

最後に,受講科目の選択にあたっては,可能なかぎり優れた教員を選ぶのがいい.これを誤ると,とんでもなく遅れた知識を授けられたり,単純なものごとを複雑に説明されたりして,書籍で学ぶよりも非効率なことがある.このような失敗を最小化するためには,自分の仕事 (研究) をまともにやっている教員による科目を選ぶのがコツだ.

  • 経済学や理工系では,国際ジャーナルに論文を発表しない大学教員は一人前の研究者とはみなされない.学界的には「存在しない」に近いあつかいを受ける.業績は大学の「研究者総覧」のほか,Scopus や Google Scholar などの文献データベースで確認できる.(ただし検索ワードの設定で結果がかなり異なるので,いくつかバリエーションを試した方がいい.)
  • 大学教授というのは『新 大学教授になる方法』(ダイヤモンド社, 2001) を書いた鷲田 小彌太が言うように,頭が悪いひとが意外と多い.いったんなってしまえば淘汰されることはほとんどない.もちろん参入するまでには自殺者もそこそこ出るようなそれなりにきびしい競争はあるが,特に文系の一部分野では,学問的能力とか熱意というよりも単にどれだけ長期間貧乏かつ社会的地位のない生活に耐えられるかといった競争になっている.
  • 「頭が悪い人は同じことを理解するにも頭がいい人よりは苦労するわけだから,その一生懸命考えた経験を教育にも生かせるのではないか」と思うひともいるだろう.学生に教えるべき内容すべてについて (苦労の結果としてかどうかは問わないが) きちんと理解しているならそれでいい.問題は自分の担当科目で学生に教えるべき内容についてさえきちんと理解していない教員が少なくないことだ.
    • たとえばある概念があったとして,それがどう誤解されうるのかをいろいろと知っていることは教育者として大切だ.だがそのことと,教員本人が誤解していることとは別次元だ.正しい理解をしていなければ,誤解法を百個知っていても意味がない.
    • へたな学者は自分が意味をきちんと分かっていない用語を平気で使ったり,いく通りにも解釈されうる表現を論文のなかにいくつも残したりする.そこそこのレフェリー制ジャーナルであれば後者のような論文は蹴られるか書き直しを要求されるだろうが,そういうジャーナルに投稿しない学者は自分では気づかないでいたりする.

以上,勉強法,勉強すべき内容,そして教員の選択についてアドバイスを述べた.このエッセイがみなさんの大学在学中の糧となることを願っている.

【2009/04/19 20:25 】
| 大学 | コメント(2) | トラックバック(1) |
<<囚人のジレンマの作り方 | ホーム | 選択の苦悩: 行動経済学的仮説>>
コメント
>野口 悠紀雄. 「超」勉強法. 講談社, 2000.

 この本読みましたけれども、あまり気に入りませんでした。野口の個人的体験談以上のものではなくて、汎用性がないです。とくに英語教育論がひどい。
 出版された直後、
「文法もろくにわかっていない高校生が、漢文の素読のごとく、英語教科書を丸暗記して何の意味があるのか」
という批判が英語教師から上がりましたし、私は、
(野口は高校の英語教科書を読んだことがないのだろう)
と思いました。
 野口は批判に対して、
「文法が無用と言っているのではない」
とかなんとか言ってましたけれども、高校の英語教科書が、暗記するに足る文章であるかどうかについてはスルーしてました。
【2009/05/01 12:14】
| URL | Inoue #-[ 編集] |
一言で言えば,信じる者は救われる本です.ボク自身の経験では,英語など得意だった科目はやっぱり野口の言うとおりの勉強法をしてたし,不得意だった科目では野口とはだいぶちがうことをやってました.個人的体験談というのはそのとおりかもしれないが,抽象的で難解な書き方をしてるわけじゃないから,汎用性はじゅうぶんあるでしょう.

高校の英語教科書が暗記の対象としてベストであるとは思わない (野口も「誠につまらない」と書いてる) けど,ボクはぜんぶ覚えてました.意味を理解して文章を覚えておけば,文法なんてたいしたことないでしょう.文法なんて文からパタンを抽出しただけ.なんとなくそういうことだとみんなが理解している法則を,きちんと言語化しただけ.英文の暗記によって「なんとなくそういうこと」という法則さえつかめるようになれば,読むのも書くのもそれほど困らないはずです.どう読むべきか,どう意味を取るべきかが暗記によって感覚的に分かっている人にとっては,文法書で初めて見る内容も知識の確認で済むわけです.

それにしても英語教師のすすめる英語勉強法はどうしようもないのが多かったです.文法書とか単語集を少しずつ毎週テストするとか.文章なら20回読めばかなり頭に入っても,単語集なら50回読んでもそう簡単に覚えられるものじゃない.(単語集に文例がなければまさに単語しか頭に入らない.文例があると英文も少しは覚えられるが,英文間のつながりがないので記憶に残らない.)
【2009/05/03 10:26】
| URL | 平凡助教授 #4TQqPKZU[ 編集] |
コメントの投稿











管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
http://theorist.blog6.fc2.com/tb.php/177-d3e0fe87
授業登録
 大谷大学では、現在は「聴講登録確認期間」である。 自分が登録した授業がちゃんと Huangの下書き帳【2009/04/30 10:32】
| ホーム |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。