GSM では終了要件として「プロジェクト研究」を課している.そしてその発表会 (審査会) が近いうちにある.昨年 2006 年は会場で守秘義務誓約書に署名させられた.(ボクは忘れていてやらなかったのだが.) ビジネススクールなので,プロジェクト研究が企業秘密や特許申請中の (あるいは申請を予定している) 情報にかかわることがある.そのような情報については,一定期間秘密にする利益を認めてよいだろう.
問題は「この発表のこの部分はオープンにしても構わない」と特に発表者から断りがあったもの以外は秘密扱いとされたことだ.つまりすべての発表が原則秘密扱いになっていたことだ.この「原則秘密の」やり方は自由学術の伝統に反する.(一定の用件にしたがったうえでの) 自由な引用や批判を認めることは自由学術の基本だ.その自由を制限するのは最小限にする工夫をすべきだろう.去年のやり方は怪しい商売方法のセミナーでの誓約書みたいで,大学のやりかたとしてはふさわしくない.自分はいくつか意見を述べ,その後もその主張を繰り返した.さいわいそれについては賛成意見しかなかったのだが,今年度改善するとも聞いていない.あまりプライオリティの高い問題と考えられず,後回しにされてきたのだろう.
こうなったら市民的不服従 (civil disobedience) に訴えたほうがいいだろう.(先人たちは自由を拡張するために頑張ってくれたが,いまやろうとしているのは後退した自由を取り戻すための不服従であり,拡張にならないのが少々情けないが.) 大学教授のほとんどが利用している (ウソだろう?) と言われる高速道路の「無料通行宣言書」の精神に倣い,「宣言書」を提出することにした.言い換えれば誓約への限定的同意をしめす文書を提示することにしたのだ.そして,機密あつかいすべきでない発言に言及する権利を放棄したくない関係者に,以下のような文書の提出を呼びかけた.
誓約書への限定条件
以下の条件付きで誓約書に同意します.
[条件] 発言者が秘密にすることを明示的に求めず,かつ秘密にする利益が薄いと判断される発言については,公然と言及する権利を留保します.
署名,年月日
(あまりぴったりしない言葉だが,「公然と」とは openly あるいは publicly のことで,「関係者に限定せず」といった意味.) このような限定条件をつけた場合,そもそも会場に入れてもらえない可能性もある.それは GSM 執行部側の判断であり,ボクはその可能性を否定できない.しかし,GSM 側も大学人から構成されているので,学問の自由を危機に陥れる誤った判断を繰り返さないと思いたいものだ.できればこのような文書を使用しなくても済むように,GSM 側が手を打ってくれればベストだ.さて,GSM の執行部はどう出て来るか.
つづく
リマーク
本気で誓約書を書かせるなら,以下のような点に注意してもらいたかった.(2006 年はいずれも実現せず.)
- こういう誓約をしてもらうということを事前に文書でしめす.
- 会場の入り口でサインをしてもらったうえで入場してもらう.
- 該当発表者をプログラムに明示する.
- 秘密扱いを認める情報を極力絞る.該当者は秘密あつかいしてほしい部分と秘密解除の条件 (期限など) を明示する.
たとえば秘密扱いを認めるのは,原則「企業秘密や特許申請中の (あるいは申請を予定している) 情報」とするのが簡単だろう.「特許あるいは私企業による新規事業や起業にかかわる情報で,プレスリリースされていないもの」なども考えられるが,上記くらいに緩めても問題はないだろう.