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ソロモン王ジレンマ解決あとがき
ソロモン王ジレンマ解決のための三原メカニズムを提示した論文「三原ソロモン JER」がジャーナルに掲載された:

H. Reiju Mihara. The second-price auction solves King Solomon's dilemma. Japanese Economic Review, 2011, doi: 10.1111/j.1468-5876.2011.00543.x (無料バージョンは MPRA Paper で入手可.)

これまで専門誌に投稿ターゲットを絞って来たボクにとって,経済学全般誌に論文を載せるのは初めてだ.日本人読者の多い全般誌 JER に投稿したのは,この論文で提示しているメカニズムがひじょうにシンプルなため広範な読者層が期待できることに加え,この論文がすでに日本語書籍に引用されている (坂井豊貴・藤中裕二・若山琢磨『メカニズムデザイン』; 川越敏司『行動ゲーム理論入門』) ことを考慮したためである (川越の方は本文に見当たらなかったので校正ミスかも).ボクとしては,自分が毎号チェックしているジャーナルに載ってひと安心といったところだ.

「メカニズムデザイン営業用」のこの論文の掲載事実をボクが Twitter でつぶやいたところ,それを見たある大学の学部生がこのメカニズムを復習しようとつぶやいていた.ゼミナールで旧バージョンを勉強したらしい.そのとき発表者かコメント者がばっさり斬っていたらしいけど (たぶんボクが重視しないパフォーマンスにかんする問題か),学部生でそれができるのはさすがだ.

というわけで,この論文の「あとがき」と銘打ったこの記事では,学部生および大学院生などの新参研究者に三原ソロモン JER をお勧めできる理由や弱点なんかを考えてみる.実験家にも理論家にも検討をおすすめできる理由はありそうだ.

まず,三原ソロモン JER が Japanese ER に掲載された事実に注目しよう.(今まで掲載されたことがないので推測だが) おそらく実験や理論の専門誌にくらべれば国際的に注目されるには時間がかかるだろう.いまこのメカニズムを実験したり理論を拡張することは,この時間的ギャップを利用できるということだ.その際,三原メカニズムは単純であるため,それを学ぶのにたいして時間はかからない.実験するだけなら,最初にリンクした先の日本語解説を読めば十分かもしれない.(ただしボク自身は実験に無知なので確証は持てない.) 大学院入学の面接試験のときそのメカニズムを口頭で説明することも十分可能だろう.面接試験官に「古いテーマ」と思われて退屈されてしまう危険性も,「新しすぎてついていけない」とか「修士論文の期限に間に合うテーマか?」と思われる危険性も避けることができるのではないか.

ただし (文字数削減のため)「三原メカニズム」とここで呼んでいる配分方法自体は,専門家のあいだでは古くから知られていた可能性はある.具体的には冒頭のリンク先記事の追記 (9/6/2006) に挙げた1992年とか1989年発表のメカニズムの変種とみなせるということだが,三原メカニズムと同じものを提示した具体的な文献は特定できなかった.ある意味,三原ソロモン JER は一周遅れのところがあり,進んだ理論家の関心はその論文が解いたよりももっと難しい先端的問題にシフトしていたのだ.

進んだ理論家はどんな難問に関心を持っていたのかって? ボクが考えた問題では「本物の母親と偽の母親では子供の評価額にたとえば5万円のギャップはあるよね」となっていた.進んだ理論家は「いや,本物の母親と偽の母親では評価額に正のギャップはあるけど,あらかじめそのギャップに下限を設けることはできないだろう.本物がその子を1300万飛んで1円で評価し,偽物がその子を1300万円で評価しているような場合でもちゃんと本物に子供を渡さないとダメだろ」という点を執拗に気にするわけだ.進んだ理論家の設定するこの問題に対応できていないのが三原メカニズムの弱点だ.いい加減なボクは,「そんな小さなギャップしかないなら,どっちに渡してもいいじゃん」と思って問題から除外したわけだ.「経済学者は解きやすいように問題自体を変えてしまう」という揶揄があるが,ボクは「経済理論家は解きにくいように問題自体を難しくしすぎてしまう傾向が強い」と返しておこう.

念のため付け加えると,三原メカニズムが国外でまったく無視されているとは言ってない.ソロモン王のジレンマにかんする実験論文 (赤ん坊を刀で切ろうとしたわけではないだろうけど……) の3箇所で,Sonia Di Giannatal と Alexander Elbittar が三原論文の 2008 年版を引用している.でもまだ手遅れではないはずだ.

次に,三原ソロモン JER が解概念をひじょうにフォーマルに定式化している事実に注目しよう.正直なところ,ボクはこの論文を経済学一般読者向けに全編を通して易しくインフォーマルに書きたかった.ソロモン王ジレンマにかんする文献のほとんどがインフォーマルに書かれているという事情もあるからだ.だがレフェリーは「iteratively undominated strategies て,なんやそれ?」と文句をつけたのだ.「弱支配された戦略をすべて削除することを何段階か繰り返して得られた結果」というのがその答えだが,それをきちんと数学的に定式化して欲しいというのだ.

もちろんボクは自分の意味するところを自分できちんと定式化した.意外なことに,不完備情報のケースでこの解概念を数学的にきちんと定義した文献を見つけられなかったという事情もある.その結果,この論文の最終バージョンは,ソロモン王ジレンマものとしては稀に見るフォーマルな部分を持つことになった.既存文献をうまく補完する結果になったので,それはそれでよかったと思う.

そういうふうにして産み出された「私製」の解概念だから,idiosyncratic (個人に特有) なものになっている可能性はある.ボクとしてはその概念が自分の意図する解を明確に定義していること,そしてその概念を少し修正したところでメカニズム自体の有効性は変わらないと予想したことから,いちおう満足している.

ただ,この概念をもっと適切なものにできるという理論家もいるかもしれない.ヒントとして最後に,ボクの定式化した解概念が想定する (はずの) プレーヤの思考様式を2つ挙げておく.各プレーヤーは他人のタイプにたいする確率分布を持たないことに注意.
  • プレーヤーは思考を段階的に進めて行く過程で,自分および他のプレーヤーの戦略を絞って行く.
  • プレーヤーは思考を段階的に進めて行く過程で,他のプレーヤのタイプは絞り込まない.

(HRM からの寄稿)
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【2011/07/21 02:06 】
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