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鈴村整合性の本
修正に4ヶ月かかった論文をクリスマス直前にやっと再投稿した.クリスマスの日には数理経済学誌からもうひとつの論文のアクセプタンスレターが届いた.(二年半前にyyasuda ブログで「クリスマス明けには素敵なジャーナルから「載せるよ」レターが届くかも」とコメントしたことを思い出した.)

そんなわけで,今年の冬休みは珍しくプレッシャーがない状態で始まった.(すべての活動の時間を一週間以上奪われかねない問題も控えているが.) 溜まっていた本のなかから Oxford の Handbook of Rational & Social Choice を取り出して,ページ数のわりに大きな本だとため息をつきながら,「そろそろ自分も引退してこういう規範経済学色の濃いものでもゆっくり読もうか」とか夢想している.

溜まった本のなかには Bossert and Suzumura, Consistency, Choice, and Rationality (2010) もある.Suzumura consistency (鈴村整合性) の本なんだが,どういう結果を載せた本かはまだ把握していない.たぶん Chapter 1 を読めば全体のアウトラインは分かるんじゃないかという気はしている.とりあえず Preface と Section 1.1 だけは読んでみた.

Preface では扱っている問題がコンパクトに概観できるのはありがたい.ただし transitivity, quasi-transitivity, acyclicty といった「選好と選択」理論の用語が定義なしで出て来るので,疎外感を感じる大学院生や研究者もいるかもしれない.それらはべつに難解な概念ではないので,知らないひとは本書中で定義を探すなり,Kumabe and Mihara (2010) (あるいはワーキングペーパー) のイントロを読むなりするといい.

Section 1.1 はメインテーマである Suzumura Consistency がそのままタイトルになっている.6ページまで読めばとりあえず鈴村整合性がどういうものであるかは分かる."Money pump" ができない条件と見なせることなど,この概念の「売り」もいくつか挙げられている.純粋数学への応用もできそうな気もして来る.「選好と選択」理論に関心ある読者なら,それ以上読むべきかどうかを自ら判断できるはずだ.

鈴村整合性の定義は,「選択肢 a(1) を a(2) 以上に好み,a(2) を a(3) 以上に好み,…,a(k-1) を a(k) 以上に好み,さらに a(k) を a(1) より好む」といったサイクルが生じないこと,つまり強選好 (「より好む」) をひとつ以上ふくむような弱選好 (「以上に好む」) のサイクルを許さないこと,を2項関係に要求する.この条件を満たす関係 R が completeness (あらゆる x, y について xRy or yRx が成り立つこと) を満たせば,推移性もみたしてしまい,推移性を要求する標準理論と区別できなくなる.したがって「completeness に欠けること」をどう積極的に評価するかで,鈴村整合性自体の評価が大きく変わると思う.たとえば行動経済学の観点から鈴村整合性を評価できることが6ページに示唆されているが,より説得的な議論を知るためにはもっと読み進む必要がありそうだ.

Kumabe and Mihara (2010, Preference aggregation theory without acyclicity: The core without majority dissatisfaction, GEB) の著者としては,いまその論文のイントロダクションを書いたなら,多少はちがっていたかもしれない気はしている.あるいはその論文は非対称的な強選好に焦点を合わせており,その否定として定義された弱選好は completeness を満たしてしまうので,鈴村整合性が入り込む余地はなかったかもしれない.その一方で,鈴村整合性を評価する行動経済学的研究をもっと知れば,われわれの論文のフレームワークにさらに説得力を持たせることができたかもしれない.

ただ,整合性のなかで通常もっとも弱いものとして知られる acyclicity に比べれば鈴村整合性は当然ながら強い条件である.その acyclicity さえラディカルに取り除いた Kumabe and Mihara は,フレームワークの解釈の変更まで迫る,まったく異なった種類の貢献と言った方がいいだろう.

「Completeness に欠けること」を評価する研究者は,この本を読み進めると得をするかもしれない.「Acyclicity に欠けること」あるいは「コンテクストに依存した選択」を評価するみなさんは「非循環性なしの社会選択理論が出現!」でも読んで,Kumabe and Mihara (2010) へと進むとボクとしてはありがたい.とりあえず中村ナンバーの勉強にはなるだろう.(笑)

(社会選択などを専門とする HRM からの寄稿)
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【2010/12/26 07:37 】
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