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投票方式はこれで決まり?
決定版になるかもしれない投票方式が発表された (といっても最新情報ではない).発表したのは選挙システムの改革に熱心な数学者とも政治学者とも経済学者ともいえる Michel Balinski らだ.発表媒体は経済学者がほとんど投稿しない PNAS という米国雑誌である:
Michel Balinski and Rida Laraki, 2007, A theory of measuring, electing, and ranking. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 104: 8720-8725.

社会選択理論でもっとも標準的なのは,「選好」にもとづくアプローチである.アローの定理に始まる不可能性定理に満ちたこのアプローチからの訣別を目指す著者らの意気込みは,アロー以前の忘れられた古典からの「文学的」とも思える頻繁な引用からも伺える.Google Scholar によれば,この論文は現在のところ 37 件のソースに引用されている.爆発的とは言えないデビューだが,こんご静かに支持を増やして行くかもしれない.(あまり比較にならないが,HRM の 1997 年のある論文の被引用数 34件 はすでに越えている.)

Balinski らが提唱する方法は,基本的には各人が候補者 (選択肢) に割り当てるゲレードの中央値をその候補者の最終グレード (アウトプット) とする方法である.その興味深い同点決戦ルール (tie-breaking rule) を除けば,すでにじっさいに利用されているはずだ.

簡単な例を見てみよう.候補者 2人,投票者 6人がいて,各投票者は6段階あるグレード A, B, C, D, E, F (好ましい順) のいずれかを各候補者に割り当てるとする.いま,候補者 1 が A, E, C, E, A, C を,候補者 2 が B, E, E, C, A, B を獲得したとする.高い順にグレードを並べ変えると,
  • 候補者 1: AACCEE
  • 候補者 2: ABBCEE
となる.両候補者の獲得グレードの中央値は C となる.(候補者 2 は B および C が中央値だが,ここでは悪い方を取る.) いまのように同点のばあいには,各人のグレードのリストからこの中央値 C をひとつ分抜いたリストを考える:
  • 候補者 1: AACEE
  • 候補者 2: ABBEE
すると今回は候補者1の獲得グレードの中央値が C, 候補者 2 のそれが B となり,これらが最終グレードとなる.したがって候補者 2 が候補者 1 より高いランクを得る.

リマーク.ここでは中央値の一回の削除で最終グレードが得られたが,より一般的には異なる最終グレードが得られるまで中央値の削除を繰り返すことになる.二人の候補者が得た整列後のグレード行が同一でない限り,その優劣は決められる.


さて,この投票方式の背後には,method of grading (格付け方法) および aggregation function (集計関数) と呼ばれる関数が存在する.

まず,Method of grading とはどんな関数か? そのインプットは,プロファイルと呼ばれるグレードの行列で,i 行 j 列の値は候補者 i にたいする投票者 j のつけたグレードを意味する.アウトプットは,各候補者に1個ずつ割り当てられた最終グレードからなる列である.

ここでカギになるのが IIA (independent of irrelevant alternatives; 無関係対象からの独立) という公理であり,これはある候補者がふたつのプロファイルのいずれにおいても同じグレード行を割り当てられたら,この候補者はどちらのプロファイルでも同じ最終グレードを得るという要請である.つまり特定の候補者の最終グレードを決めるのに他の候補者の得たグレードは関係ないということである.(候補者 2人の順序を決めるとき,その2人にたいする順序付けだけが問題になるとしたアローの定理における IIA とちがい,ここでは候補者 1 人のグレードを決めることを問題にしている.)

したがって,もし method of grading が IIA をみたせば,その背後には「獲得グレードのリスト (行) をインプットとし,1個の最終グレードをアウトプットとする関数」が存在することが分かる.これを aggregation function と呼ぶ.Method of grading で特定の候補者の最終グレードを決めるためには,プロファイルからその候補者にかかわる行だけを取り出し,それを aggregation function に入れればよい.ただし各候補者に異なる aggregation functions が適用される可能性は残るので,それを避けるためには公理 neutrality (中立性; 候補者を平等にあつかう要請) を method of grading に要求すればいい.

Aggregation functions の例としては,グレードのリストの
  • 平均にいちばん近いものを最終グレードとするもの,
  • k 番目に高い値を最終グレードとするもの (kth-order functions)
などが考えられる.ここで「戦略的操作」の可能性を考えると,項目 2 の kth-order functions が残り,「平均」ははじかれる.さらに社会厚生の最大化や多数による支持なども考慮すると,(項目2 の特殊ケースである) 中央値を最終グレードとする方法が生き残る.Balinski らがグレードの中央値を採用したゆえんだ.

リマーク.中央値が多数の支持を受けるというのは,中央値にあたるグレード m とそれ以外のグレード g を比較すると, m が多数を得るということだ.かりに g が m よりも高かったら,m 以下のグレードをつけたひとはすべて m を g より支持するはずで,その人数は (m が中央値であることから) 半数以上となる.

じつは平均にせよ,kth-order functions にせよ,aggregation functions と呼ばれる関数はすべて定義により anonymity (匿名性), unanimity (全員一致の条件), monotonicity (単調性) の公理を満たす.それに連動して method of grading 自体も対応する公理を満たす.つまり何らかの aggregation function にもとづく method of grading というだけで,すでにかなり望ましい性質を持った関数になっている.

リマーク.ここで anonymity (匿名性) とは投票者を平等にあつかうことを要請する公理だ.上記の例で候補者 1 が得た A, E, C, E, A, C のグレードをAACCEEと整列して考えた.これは「どの投票者がどのグレードを割り当てたか」ではなく,「各グレードがどれだけの頻度で現れたか」だけが問題になるためだ.つまり中央値にもとづく method of grading が anonymity を満たすことを利用した.

また,monotonicity (単調性) という公理は,ある候補者にたいして,すべての投票者がプロファイル 1 においてプロファイル 2 におけるより高いグレードを与えるとき,その候補者が得る最終グレードはプロファイル 1 においてプロファイル 2 におけるより高くなることを method of grading に要請する.(また,すべての投票者がプロファイル 1 においてプロファイル 2 以上のグレードを与えるとき,その候補者が得る最終グレードはプロファイル 1 においてプロファイル 2 以上になることを要請する.)

Method of grading ならではの要請とボクが見なしているのは unanimity (全員一致の条件) である.これは「ある候補者に全員が同じグレード g を与えたら,この候補者の最終グレードは g になる」ことを要請する.これは「秀」とか「優」とか「良」といった各グレードの意味が「共通の言語」(common language) としてはっきりシェアされている場合にこそ有意義に要請できる公理だと思う.

リマーク.通常のアローのフレームワークのように選好をインプットとするばあいは,この意味における unanimity を要請すべきかどうか疑わしい.ある候補者をすべての投票者が選好の 3 番目に位置づけているとしても,たとえばある投票者はグレード B くらいを与えたいと思っていて,べつの投票者はグレード E だと思っているようなばあい,最終ランキング (社会的選好) でその候補者を 3 番目にする必要があるかどうかは疑わしい.

さて,Balinski と Laraki が提唱するこの投票方法にみなさんはどう反応するだろうか?
「うちの大学で採用している決め方で,〈平均〉のかわりに〈中央値〉を使えばこれになる」
と言う大学関係者もいるかもしれない.
「社会選択理論ではすべての選択肢にたいする選好 (順序付け) を投票者が表明することは知っていたが,じっさいには選好のすべてを表明するようなルールは稀だ.ひとびとは選択肢全部をランク付けするよりは,各選択肢にグレードを与える方が楽なのではないか.10人も面接したら自分も記憶が交錯してランク付けなんかできなくなるけど,グレード付けならひとりづつやれるのでなんとかできそうだ」
と思う面接官経験者もいるかもしれない.

(投票理論などを専門とする HRM からの寄稿.投票理論家として保持するどうでもいい「記録」がプロフィールにある.)
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【2010/05/20 17:08 】
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