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横尾真『オークション理論の基礎』

今年,オークションにかんする本を二冊ゲットした.

  • Peter Cramton, Yoav Shoham, and Richard Steinberg, editors. Combinatorial Auctions. MIT Press, Cambridge, Massachusetts, 2006.
  • 横尾真. オークション理論の基礎: ゲーム理論と情報科学の先端領域. 東京電機大学出版局, 2006.

このうち横尾 (2006) を通読したので感想を述べたい.批評性もなにもないので「書評」ではなく「感想」だ.

まずボクがこの本を通読した事実とめったに本を読まない事実から,直ちに分かることがある.それはこの本を読むことの重要度をひじょうに高く見積もっていたということだ.この本に興味を持ったのは,それが情報科学とゲーム理論の境界領域をあつかっているためだ.

オークション理論はいまや経済理論の常識となった感があるので,最低限の知識は仕入れておきたかった.とりあえず自分が現時点で知っておきたいていどのオークション理論は『オークション理論の基礎』で勉強できたと思う.その意味では手頃な本が出てくれて助かった.しかし,ボクの関心はオークションではない.オークションを専門にするつもりはないのだ.

では感想をランダムに列挙しよう:

  • コンパクトで絵がかわいい.ねずみのやつとか.
  • 遊びの例を多く拾って来ているのは楽しい.さっそく海賊の宝石分配のバックワードインダクションや階段じゃんけんなどの例を学生なんかに披露した.後述する勝者の呪いのクイズにたいして,ある学生は「低めの買収価格をつけていったん蹴られて,その後もう少し高い値をつける」と想定外かつ現実的な回答をしてくれた (笑).
  • 説明はごく一部の例外 (アルファ・ベータ探索と5.6 節の最後) を除いて,とても分かりやすかった.(さいきんゲーム理論の分かりやすい本が増えていることから,後発は有利というのを差し引いても.) たとえば準線形の効用関数でのパレート効率性の意味なんかにも触れているのは親切.
  • 架空名義入札に触れる一方で collusion (結託,共謀) に触れていない (?) など,意外だったところもある.もちろん同じオークションに両方を要求するのは酷だろうけど.なお,談合については触れている.
  • 組み合わせオークション (複数商品のパッケージにたいする入札が可能) とダブルオークションをあつかった第5章はかなり新しい.著者自身の貢献もコンパクトにサーベイしてくれている.
  • 情報科学にかんする話題としては,探索や (勝者決定のための) 計算の複雑さより,「秘密分散」の技術を利用した「セキュアプロトコル」の話題に魅かれた.非落札者の入札額を主催者側が知ることなくオークションを実行する方法だ.イメージはあるていど掴めた.情報科学をいずれもう少し勉強してみたい気になった.オークションのセキョアな実行は,上記の Cramton et al. の本にも見当たらないトピックだ (目次と Introduction to Combinatorial Auctions と Combinatorial Auction Glossary を読んだ限りの判断).

「勝者の災い」のクイズとそれから思いついた問題を述べてみよう.まずクイズ.

  • あなたは投資家で,ある会社を買収しようと考えている.
  • その会社の正確な価値 v は分からないが,区間 [0, 100] の一様分布であることは分かっている.
  • その会社を買収すると,あなたはその価値を50パーセント増やして転売できる.
  • 買収価格 b を提示すると (提示は一回のみ可能),その会社のオーナは b > v なら買収に同意する(オーナは真の値を知っている).
  • 価格 b で購入した場合のあなたの利益は 1.5v-b となる.
  • 買収価格 b としていくらを提示すべきか?

このクイズは,条件付き確率の演習問題にちょうどいいかもしれない.答は『オークション理論の基礎』あるいは横尾真のサイト講義スライドを読めば分かるとおり,b=0 となる.正の買収価格を提示すると平均的には損をするのだ.わが学生の「低めの買収価格をつけていったん蹴られて,その後もう少し高い値をつける」というスバラシイ答は,残念ながら題意に沿わない.

ただ,上のクイズで複数回の入札を認めるとどうなるかというのは面白い問題かもしれない.たとえば会社オーナーにとって,何回までの入札を認めるのがベストだろうか? 1回では会社は売れないのでベストではないはずだ.このアイディアは卒業論文のネタに使えるかもしれない.(これがすでにやられているアイディアならばだれかここにコメントしてくれ.もし新規性のあるアイディアならば,だれかペーパーを書いた上でコメントしてくれ.謝辞をだれにすればいいかって? 分からない人は,秘密コメントでメールアドレスを教えてくれ.そしたら教えよう.)

追記 (12/21/06). 『オークション理論の基礎』が「談合」に触れていることに言及した.「架空名義入札に触れる一方で collusion (結託,共謀) に触れていない (?)」という言い方は,談合について触れていないという誤解を生む可能性があったため.本文では,複数買い手がひとつの名義で申し込むことを collusion と呼んでいた.それも一種の談合と言える.

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【2006/12/17 17:56 】
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