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なんとなく非日常的

ひさしぶりに外出した8 月10 日は「典型的な大学教員の典型的な日常」とは微妙に違う,観光旅行にでも行った気分の,なんとなく非日常的な日だった.その日の出来事を列挙してみよう.

ところで,前回予告したソロモンの問題の最新の解法にかかわる記事は数日から数ヶ月遅れるかもしれない.ペーパーは入手できているのだが,そのペーパーのデータベース登録に技術上の問題が生じているらしい.なお,前回記事に「メカニズム・デザイン: レクチャー・ノート」の図へのリンクを追加したので注意.

14:00 ころ.屋島の西に流れ込む新川沿いの堤防.クルマを走らせて医学部へ向かう.新川の水辺はこの暑い都会にあってオアシスのようだ.釧路湿原をドライブしたときの感覚が蘇る.湿原のスケールはないが,ここでは数多くの水鳥たちが集まっているのが間近に見える.途中,道路にハトが群がっている場所もあった.

医学部キャンパスに着くと,正面入り口付近に STARBUCKS の文字.コーヒーでも飲もうかと (思うわけないが) 中をのぞく.まだ開店していなかった.

きょうここに来たのは健康診断のためだ.よそのアホ大学とちがい,この大学は医学部病院にそういうルーティンをやらせるのは資源の無駄使いだというのが分かっている.(いや,怖がってだれも医学部の教授に身体を診てもらいたくないからというのが本当だろう.) 診るのは予防医学協会という外部団体だ.(じっさいには大学病院から看護婦が派遣されてアルバイト代を稼いでいるのかも.そこの事情は分からない.) 客はまばら.ほとんどの客は白衣を着た医師たちで,色黒のマッチョな男も混じっていた.店員というか診る方はメイドのようなエプロンを着たかわいい看護嬢さんたちとそうでもない看護婦さんたち.

べつに太ってはいないのだが,体重は去年より増えていた.それでもこの日に合わせて減量していたので,1週間前より3キロ近く減っていたのだが…….しかし減量というのもいい加減で,やり始めて数日で3キロ減ったと思ったらその後一週間でもとに戻り,「そう簡単には減らないのかな」と思ってやめたらその後は増減を繰り返し,などということがここ数週間続いていた.

視力検査というのはあんなに時間をかけていいのだろうか.ひとつひとつに 20秒くらい考え込むことが多かった.見えていないものも,まばたきをして集中し直すと陰の具合などから気分的に分かるようになる.いや,分かりはしないが,輪のどこかが欠けているとしたらあちらの方向かなというおぼろげな感覚が生じて来る.いったんそういう集中が必要な段階になったあとも,6 段階くらいは度を上げていくことができた.

血圧測定の女の子はかわいかった.腕を撫でられたあとボーッと顔を見つめていて血圧が高まったせいか,ボクの血圧は正常値内に収まった.血液採取の女の子は腕が細かった.

医者が聴診器を当てているときにくしゃみをハクションとしたら,医者は驚いてとびあがった.ボクが服を捲り上げてお腹を出しているあいだじゅう,なぜか看護嬢のお姉さんがこっちをじっと見ていた.出口はこちらと誘導しようとしたんだろうか.カーテンのついたての内側に人が入らないように監視していたのだろうか.ところがボクの次の女の客は,ボクがシャツをズボンに入れ終わらないうちに中に入って来た.

診察は終わった.朝からなにも食べていないので,病院内の食堂に行った.高台の上の病院なので展望食堂があるのかと思えばさにあらず.食堂は地下にあり,あまり安くはなかった.カツカレーが 710 円だったろうか.ボクは 750 円のカツ丼定食を食べた.

ここは看護学科学生にたいする医学部教授の「セクハラ事件」が数日前明るみに出た平成香川大学医学部キャンパスだ.そう思いつつ (売店で買ったばかりのピーチ味のラムネタブレットを食べながら) 病院を散策するのは感慨深いものがあった.この医学部は,学生が看護師になったときエッチな患者に適切に接することができるよう教育上の配慮をもって行われた行為も否定するにちがいない.包括的・総合的な教育ができていないのはまちがいない.包括的かつ総合的に教育することばかりがいいとは言わないが,だいじょうぶだろうか?

あんまりだいじょうぶそうではなかった.不審者が侵入するテストを試みたのだが,どこまで行っても呼び止められることはなかった.安全のため,具体的にどういう場所に侵入できたかは言わないでおく.ただ,入院患者や訪問者には IC チップ式の RFID でも配って管理した方がいいのかもしれない.

病院を出ようとしたとき背後に視線を感じた.振り向くと二階に看護婦か事務員のようなわりとスタイルのいい女性がいる.まだ視線はこちらには向いてなかったが,ボクの早期警戒システムが早目に作動したようだ.遠目には若く見えたその女性が,こちらに気づいてなにか話しかけて来た.どうやら数ヶ月前まで学務で働いていた塩出さんだ.だいぶ年上の女性を若い女性に見誤った自分の未熟さを恥じつつ,ボクは病院を去った.

5 時頃,ふだん勤務するキャンパスにクルマで移動.人工知能の本を注文したあと,論文を数本 JSTOR からダウンロード.GSM で購読している JSTOR は The Business Collection だ.別のコレクションにふくまれる Journal of Philosophy はもちろん,Journal of Law and Economics や Journal of Law, Economics and Organization などはふくまれていない.それでも JSTOR 自体を導入していない経済学部よりは状況はましである.博士課程を作ろうという学部が,それでだいじょうぶなのだろうか.まあ,彼らに博士課程を作ってもらいたいとは思わないので心配は止めるが,それでも基本的なリソースとして JSTOR くらいは契約しておいた方がいいと老婆心ながら思う.

深夜になる前に用事が済んだので,ひさしぶりに本屋に行った.ひさしぶりに行ったその場所は,まわりが工場や倉庫といった港湾施設ばかりの宮脇書店総本店.偶然その日オープンしたばかりだそうで,なぜか観覧車もあった.平日の夜であるせいか,客はまばら.品揃えは決して悪くはないが,本州から渡って来るほどのものではないかもしれない.本は買わずに 400 円払ってなぜか観覧車に乗った.ボクが乗ったとき客が乗っていたのは観覧車全体のうち3箱ていど.待つ必要はまったくなかった.地上高はそれほどないのだが,油の切れたような摩擦音が1, 2 秒ごとにギーギーしてけっこう怖かった.風が吹くとポトッと落ちるかもしれない.

夕食は吉野家.米国産の牛肉が数日前に輸入再開されたこともあって期待して行った.だが,まだ牛丼はなかった.予想外の出来事で,ひじょうに残念だった.

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【2006/08/11 22:11 】
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ソロモン王とか香川大学でのセクハラとかアカハラとか

さて,前々回前回の記事で「王様ゲーム」や「オッパイ」や「オークション」や「強制参加」や「参加しない自由」に言及したのにはふか~い深いわけがある.それらは「ソロモン王のジレンマ (King Solomon's dilemma)」という非分割財配分の有名な問題,そしてそれにたいする最新の解決法にかかわるのだ.(非分割財とは整数単位でしか供給できない財.「王様ゲーム」と「オッパイ」はソロモン王のジレンマを誘導するための伏線.「オークション」「強制参加」「参加しない自由」はそのジレンマの解決法に本質的にかかわる.)

ちなみに「知恵」で有名なソロモンという王様は,ちゃんとエロなこともやっている.(たとえば精神病理を専門とするあるクリスチャンのまじめな聖書人物紹介にも,「異教の女を妻や妾として迎え、その総数は1000人におよび」,「彼の女性に対する執着は一種の病的なもの(Addiction)とも言えるレベルに達しております」とあるとおり.) ボクが王様ゲームを楽しむエロ助教授を持ち出したのも,ひじょうに理にかなっているわけだ.

なんてったって千人だ! 「キスしようと教授に言われた」と女子学生ひとりから苦情があっただけで,その教授の「セクハラ」業績として認められてしまう香川大学医学部とは次元がちがう.このことにかぎらずどうもあそこは業績評価が甘すぎる.1000人とはいわないが,せめて100人くらいから苦情がなければまだまだだ.うちの大学なんか,「百人斬りした」と豪語する教授もいる,あるいはいた.(100人とエッチしたんであって,単にキスしようと言っただけじゃない.念のため.なお「百人斬り」は平成香川大学に転職する前の話であり,転職後の実績は知らん.)
セクハラもできないようではたいした学者にはなれないよ
と笑うその教授にボクは「関係あるんですか?」以上の反論はしなかった.べつに同感したわけではないのだが,次から次へと精力的に研究成果を発表してきたその教授の言葉に,ある種の重みを感じたのであった.

それにしても医学部は,女子学生が間接キスを迫る頻度が高い香川という文化圏にあって (なにかの儀式なのだろうか; 断ったら「セクハラ」とか言われるんだろうか; やや趣旨が違うが「期末試験日のキスとか握り合いとか身体検査とか: 6月7日の授業裏ログ」も参照),思い切りズレた判断をしたものだ.「過敏性腸症候群なんできょうは間接キスはやめとくけど,直接キスならいいぞ」といった気の利いた対応もできなくなってしまうではないか.

香川というカルチャーを無視して,地元を敵に回したのは医学部だけではない.大学レベルでも愚挙 (あるいは華麗な戦略) があったばかりだ.発端は,教育学部というか教育学研究科であった話だ.「言論統制派の陰謀? 『香川大の教授がアカハラ? 調査委設置へ』だって」に書いたアカデミック・ハラスメント問題である.調査委員会の結論は,アカデミックハラスメントがあったというより授業が手抜きだったということのようだ (四国新聞).特定のひとりの教員の責任とせず何人もの教員を処分したという点では,それなりに思い切った結論だった.しかし,「なんだ単なる手抜き授業か」というのが事の真相ならば,たいしたアカハラはなかったことになるし,今回の処分は過剰に思える.だいたい,まともな授業を期待する大学院生の認識のほうがおかしいと言えないか.多くの大学院では授業なんておまけのようなもの.あくまでも自分で研究するのがメインだ.大学院生はそのように理解した上で入学しているんじゃないのか? それに不満なら,よその国の大学院を選んだ方がいい.

だが,こういったことはポイントではない.ポイントは,教員が授業時間に学生をつれてさぬきうどん店巡りをしていたことを処分の口実にしたことにある.「地域貢献」と言っている大学が,こんなやり方で地元を敵に回してだいじょうぶなのだろうか.それとも,もしかするとこれは「たとえ処分をされようとも,それでも食べたいさぬきうどん」を全国的に知らしめ,それを通じて大学にたいする地元での評価を勝ちとるための,したたかな戦略なのかもしれない.なかなか手の込んだ技をみせつけるじゃないか,香川大学!

[8/9/2006 追記] お休みをもらった美術教員たちはとりあえず創作活動に専念したらどうだろう.授業時間を使ったうどん屋めぐりで作品のヒントはじゅうぶん得ることができただろう.うどん自体をモチーフとした作品なんかは香川では珍しくもなんともないので (それをやるなら作品の完成度をじゅうぶん高めてもらわなければ納得できない),うどん自体ではなくうどん屋巡り,あるいはそれが引き起こした社会的帰結あたりまでを視野に入れた批評性の高いアイロニーに満ちた作品なんかどうだろう.

脱線が長くなってしまった.ソロモン王のジレンマの記述とその解決法については,次回に譲る.簡単に言えば,ある赤ん坊を自分の子供であると主張しているふたりの女がいて (これで前回「オッパイ」が出て来た理由が分かったかな?),ソロモン王は本物の母親にその子を渡したい---というのがソロモンの問題だ.過去に提示された解決法としては,それこそ前回の演習問題正解で述べた類いのヘンなオークションを応用していたり,これも前回書いた all-pay オークション (これもヘン) を応用していたりする.もっとストレートな解決を (述べたペーパーを) 見つけたので,乞うご期待.

ソロモンの問題にたいするメカニズム・デザイン (あるいは遂行理論) からの初期のアプローチを概観しておきたい読者は,「メカニズム・デザイン: レクチャー・ノート」(三原麗珠) でも見て予習するのもいいかもしれない.[8/11/06 追加: ソロモンの問題にかかわる Figure 5.3 はこちら.] ただしそのノートは,エージェントが互いの (配分すべき財への) 評価額を知っている (いわゆる「完備情報」の) ケースばかりをあつかっている.また,最新の解決法を述べたペーパーにある,弱支配戦略の繰り返し削除による遂行などはあつかっていない.さらに,メカニズムを複数段階にすることによって遂行問題を解くのが格段に簡単になることを強調しすぎているきらいがある.(格段に簡単になること自体は正しいが,べつに複数段階メカニズムにしなくてもたとえば弱支配戦略の繰り返し削除を考えればそうとう簡単になる.Abreu-Matsushima メカニズムその他で有名なあの松島斉が,ある展望論文 (経済研究 47:1-15, 1996) で「多段階ゲームによるメカニズム・デザインのメリットが過度に強調され過ぎている [ママ] きらいがある」と指摘したとおりだ.ちなみに同論文はメカニズム・デザインの「創世紀」までさかのぼってその「史的展開」を概観しているので,てっとり早く背景知識を獲得したい読者には便利だろう.ちなみにボクは「創世紀」というのが,単に「創成期」のことなのか,旧約聖書の冒頭の「創世」を念頭においたメタファーあるいはアレゴリーなのか,いまだに判断できずにいる.)

【2006/08/08 19:05 】
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